前から気になっていたことをまとめてみました。クラシックの一部の楽章がいろいろな洋楽曲にパクられているという事実の検証です。このきっかけになったのはクラシック音楽に詳しいまずるかさんが「パッフェルベルのカノン」のコード進行に言及された記事です。コードで言えばハ長調の場合は C→G→Am→Em→F→C…、それに伴うベース音がC(ド)→B(シ)→A(ラ)→G(ソ)→F(ファ)→E(ミ)…と1音ずつ下がっていくカノン進行は一番典型的なパターンとしてプロコル・ハルム「青い影」が思い出されますが、他にも「パフ」「オーシャンゼリゼ」「そよ風の誘惑」、J-POPであれば「ヘビーローテーション」「翼をください」「少年時代」「大阪で生まれた女」「守ってあげたい」「クリスマスイブ」と、あげればきりがないくらいです。日本人好みの王道のコード進行のひとつ故にまずるかさんが言うように一発屋の曲も数多く存在します。
そんなクラシックの曲を、コード進行だけではなくメロディそのものをパクった曲が、実は結構あることは気になっていましたが、今回それらを並べてyou tubeの音源を使って検証しようというわけです。その手法の最初のヒット曲を検証することはできませんでしたが、50~60年代に多くのヒット曲があります。
50~60年代のアメリカンポップス全盛の頃、ボロディンのオペラ「イーゴリ公」の「ダッタン人の踊り」の一部の旋律を、「キスメット」というミュージカルの中で「ストレンジャー・イン・パラダイス」という曲にしたものがありました。そしてその2年後、その主旋律だけをレコード化して大ヒット曲させたのがトニー・ベネットです。その3曲を長い組曲の中から、その旋律部分から始まるように頭出ししたので聞いてみてください。(最初にCMが入る映像もあります)
●ストレンジャー・イン・パラダイス
~ミュージカル「キスメット」より1953
このトニー・ベネットの曲に触発されたのかどうかはわかりませんが、その翌年エルビス・プレスリーがアメリカ民謡の「オーラリー」をリメイクして、彼の初主演映画「The Reno Brothers」の主題歌として歌った「ラブ・ミー・テンダー」が大ヒット。同じ手法で、マルティーニの「愛の喜びは」から、「好きにならずにはいられない」をヒットさせました。その2曲です。
●ラブ・ミー・テンダー(エルビス・プレスリー)1956
●愛の喜びは(マルティーニ)
18世紀のフランスの曲
●好きにならずにいられない(エルビス・プレスリー)1961
●時の踊り~オペラ「ラ・ジョコンダ」(ポンキエッリ)
●レモンのキッス(ナンシー・シナトラ)1962
しかし、当時クラシックをモチーフにしたことを前面に出してヒットさせたのはこの「ラバーズコンチェルト」ではないでしょうか。サラ・ヴォーンが有名ですが、最初に歌ったのはザ・トイズというガールズグループです。ではその3曲です。
●メヌエット(バッハ)
●ラバーズコンチェルト(ザ・トイズ)1965
●ラバーズコンチェルト(サラ・ボーン)1966
60年代のそんなブームから20年後、ビリー・ジョエルのアルバム「イノセントマン」の中の1曲として、しれっとサビの部分にベートーベンの旋律が使われた名曲が「This Night」。その後邦題を「今宵はフォーエバー」として日本でシングルカットされた。(アメリカでは未シングル)ではその2曲。
●悲愴 第2楽章(ベートーヴェン)
●This Night(ビリー・ジョエル)1983
今までの曲はほぼ原曲をモチーフに、悪く言えばパクった曲。原曲が著作権の切れたクラシックだから許されるのかもしれないですが、そういうのではなく平原綾香の「ジュピター」やEL&Pの「展覧会の絵」のように堂々とカバーした曲も少し集めてみました。そう言えば、70年代「プレイバッハ」というバッハをアレンジしたジャズの名盤もありましたが、今回は古い曲と新しい曲を3曲ピックアップしました。
●十番街の殺人~ブロードウェイミュージカル
「On Your Toes」より 1936
●十番街の殺人(ベンチャーズ)1964
最後に、クラシックを新しいヒップホップ系にカバーするのが得意とするドイツ出身のsweetboxというグループから2曲。このグループのベストアルバム2枚組「Complete Best」には、1枚目23曲がヴィヴァルディからアルビノーニまで全てがクラシックのカバー曲です。
●G線上のアリア(バッハ)
●Everything's Gonna Be Alright(sweetbox)1997
●カノン(パッフェルベル)
●Life is cool(sweetbox)2004
クラシックの音楽は時代を超えた普遍性と揺るぎのない美しさに溢れ多くの人達に愛されてますが、その確立された音楽性にポピュラー・ミュージックという新しい時代の感性を纏うこれらのヒット曲の数々は、単なるパクリというよりは新しい価値の創造だと思います。これからもまた新しい刺激的な出会いを楽しませて欲しいですね。